宗像大社 高宮祭場
2025年 10月 06日
宗像大社の高宮祭場といえば、案内板や観光パンフレットでよく目にするのが
『古代から唯一現存する祭場』というフレーズです。
多くの方はこの言葉を聞いて、こう思うかもしれません。
「古代のままの姿で、いまも残っているのだ」と。
しかし、厳密に言えば、これは少し誤解を招く表現です。
現在の高宮祭場の姿は、昭和期に整備・再現されたものだからです。
🟦古代祭祀の「場」としての歴史
高宮祭場一帯は「下高宮祭祀遺跡」と呼ばれ、弥生〜古墳時代の土器や遺物が出土しています。
このことから、この地で古代の人々が祈りを捧げていたことは確かです。
神殿建築がまだなかった時代、自然そのものを神と感じ、森や岩、空に向かって祈る「庭上祭祀」が行われていました。
その聖なる“場所”として、この地が選ばれていたのです。
🟧現在の祭場は昭和の再現
一方、私たちが目にする高宮祭場
磐境や神籬、整然とした参道などは、昭和期の大造営による整備です。
1960年代からの大改修において、出光佐三氏らの支援で「古代の祭祀イメージ」を参考に再現されました。
遺跡から柱跡や建物がそのまま出てきたわけではなく、伝承と出土品をもとに、当時の祭祀空間を現代に表現したものです。
🟨『唯一現存』の意味
では、なぜ『古代から唯一現存する祭場』と言われるのでしょうか。
それは、『場所』としての信仰の連続性を示す表現です。
物理的な構造物は古代のままではありませんが、祈りの場としての役割は太古から途絶えることなく続いてきました。
その意味で「唯一現存」と表現されているのです。
🟩歴史と祈りの重なり
『古代から残る』という言葉をそのまま受け取るとロマンを感じます。
しかし、歴史を正しく知ることは、信仰の価値を損なうどころか深めることにつながります。
高宮祭場は、古代人の祈りと昭和の再現者たちの想いが重なった場所です。
目に映る姿は新しくても、その地に流れる祈りの時間は確かに太古から続いています。
